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『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』 ジャレド・ダイアモンド

『銃・病原菌・鉄』の作者ジャレド・ダイアモンドの著書。

結論から言ってしまうと、なにも解き明かされないし、(戦争と平和を読んだ直後だからということもあり)ボリューム感に乏しいのだが、疑問に思うことすらしなかった人間の性の事情とよく気になっていた性と生の事情を科学的に説明してくれるので、知的好奇心の充足のためには箸休め的に楽しめた。

盲点というか、考えてみれば当然なのだが、生と性の話なのでジェンダー問題にも直結しており、それを踏まえた上で読むことも面白かった。

また、妊娠、出産を真横で見ていたばかりなので、またしても良いタイミングで良い本に出会うことが出来た。



大きな論点は、だいたい以下の通り。

・男女の関係:妊娠と子育てをどちらが負担するかは動物それぞれの生態によって異なるのだが、人間の場合女性の方が圧倒的に負担が大きいため男側が子育てに積極的に参加しないことは広く認められる。とはいえ、自分の遺伝子を後世に残すことを考えたときに、その行動は果たして効果的なのか?

→男性の場合はよそで自分の遺伝子を残すことが非常に容易なので、その分、数を優先させる戦略と、つがいの間の子供をしっかりと育てる二つのバランスを見極めて選択することになる。

→体内受精する動物の場合、メスの場合は絶対に自分の遺伝子を引き継いでいることがわかっているが、オスは自分の子かどうかはっきりしない。それ故に他の動物の多くも不倫をして、より多く、自分の子(である可能性が高い)を作ろうとする。



・隠された女性の排卵時期:排卵時期は他の動物において一目瞭然ないしは大抵のオスが気づくような仕組みになっている。しかし人間は女性自身も自分の排卵時期を知り得ない。

→メスの排卵期にのみ性交をする他の動物とは大きく異なり、人間はセックスを日常的にしている。

→これが上記の男女関係に密接に関わってくる。



・女性の閉経:他の動物には殆ど見られないし、生殖活動を最大化させることを考えると閉経はせずに高齢で死ぬまで子供を作り続けていたほうが良さそうだが?

→人間の出産にかかる体力の消費と生命のリスクは他の動物のそれを大きく上回る。そしてほかの動物種に比べて子育てにかかる労力が多く長い。子供が小さいときに母に死なれるとその後の生存可能性が極端に低くなる。

→閉経後、生殖活動不可となった祖母が子供世代に協力することで結果的に自身の遺伝子が存続する可能性を最大化させることができる。

→この場合も、閉経せずに子供を生み続けて数で勝負するか、限られた人数の育成の質で勝負するかのバランス問題なのだ。



・男性器の発達:近種の類人猿と比較しても人間の男性器の大きさは際立っている。ゴリラやオランウータンの男性器は勃起時に3cm程度らしいが人間の場合13cm程度。なぜここまで不必要に大きくなったのか?

→セックスアピールとして鳥の尾が長くなっていったことと関連して説明される。だが、機能的には不必要で、かつ女性器からはみ出してしまうまでになると日常生活でも邪魔になるくらいであれば、女性に対するアピールにもならないかもしれない。

→メスに対するアピールと言うよりも、男性同士の間での競争として発達したのかもしれない。



上記に関連して進化のプロセスに関して耳を折った文章を引用して終わる。


「この結果として、淘汰が加速(ランナウェイ)するプロセスが生じる。つまり、その形質を誇張する遺伝子を持つオスと、誇張された形質に一層強く惹きつけられるメスがともに有利になる。おして世代を経るたびに、その形質がどんどん大きくなったり目立つようになっていき、生存上多少なりとも有益であった本来の意味を失う。たとえば、少しだけ尾羽がながければ飛ぶのに有益だったかもしれないが、孔雀の巨大な尾羽はもはや飛ぶときにはまるで役に立たない。進化におけるランナウェイプロセスは、その特質が過度に誇張され生存のために有害になったときにはじめて止まる。」


これはなんとも建築のデザインにも通ずる話ではないか!




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