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アーキテクチャー、アーキテクト

2022年、米国でデジタル分野の最も人気な職業はエンタープライズアーキテクトだそうだ。

企業建築士と訳すことができるが、これは大規模な企業で様々なシステムやビジネスモデルを統括して指揮するような仕事だそうだ。マトリックスでも出てきたアーキテクトという役の企業版といったところだろう。

企業の根幹をなす仕事なので最も重要で、当然報酬も大きい。


翻って建築の設計をする自分のようなアーキテクトはどうか?

世間的な評判は不可思議なことに未だに高いようだが、この仕事はかなり厳しい。

花形とは全く言えない厳しい労働環境に加え、給料も安い。

そして何より何をするのか、というのが実によくわからない。


本来であれば、マトリックスのアーキテクトのように、神のように雲の上に鎮座して物事のあれこれを決めて、静かにそれを見守るのが理想なのだろう。

ところが、我々アーキテクトはそんなに賢くない、というのが最も大きな問題だ。

知識も経験もないので何をやるにも試行錯誤、だけどプライドだけは高いというのが実際のところだ。


仕事は趣味のようなものと言う建築家がいた。

半分は賛成するが別の半分には反対だ。

1人で仕事をやっているのなら問題は少ないだろうが、仕事というものは経済活動として周りの人を巻き込みながら行うものなので、周りに趣味感覚で仕事をしているひとがいるとどう考えても問題だ。

趣味の域を超えない仕事にしかならないだろう。

とはいえ、半分賛成するというのは、仕事はお金を稼ぐための手段であるだけではなく人生の全てと関連していると考えられるからだ。


大学生のときに君の描く絵はおじさんが趣味で描くそれのようだな、と教授にこっぴどく言われたことがあった。もともと自分は絵がうまくないし、思い返してみれば当時は今に輪をかけて下手だったし、いろいろな知識や経験が欠けていたのでお世辞をかけることすらはばかられたのかもしれない。その時の自分はなかなか見上げた精神をしていて、そんなにひどいことを言われたにもかかわらずめげずに下手な絵を描き続けていた。今考えてみれば、日曜画家と言われていたゴーギャンが大成したのと同じかもしれない。6年間の学生生活を締めくくる修士設計の講評でも大きな会場が凍りつき、教授も大学一年生からやり直したほうが良いと言っていた。それでも建築設計を続けているとは、自分でも不感症と言う他ない。

何が言いたいかというと、人にいろいろ言われてきたが諦めなかったこの仕事だが、流石に最近は何かが間違っていると思うようになってきた。

自分自身のことはいい。日曜画家が続けてきたことなので、これからも続けるだろうし、好きなようにやりたいと思っている。が、問題はもっと大きな部分だ。

エンタープライズアーキテクトのような、本物のアーキテクト、本物のアーキテクチャー(それは物理的には存在しないものなので本物とは言えないかもしれないが)が世の中を席巻しているというのに、古代から存在してきた我々アーキテクトの存在意義や存在感は薄まるばかりだ。



これからは、しょぼくれた仕事ばかりをやっていてはだめで、マトリックスのアーキテクトのようにアーキテクチャーしていかなければならないのだ。

そのためには何ができるのか、何をしなければならないのか。

政治と一緒だ。ルールを作るのだ。

でもそれは独りよがりでは意味がない。



長い導入になったが、ナッジという手法がデザインの世界でも使われるようになってきた。

宮下公園の屋上のベンチに見られるような、おしゃれだが、使い手の行動を制限するようなものを排除アートと呼ぶそうだ。


ハーバード大法科大学院のローレンス・レッシグ教授は、人の言動を制御する手段として法律、規範(慣習)、市場、アーキテクチャー(物理的な仕組み)を挙げる。デザインに組み込まれたナッジはアーキテクチャーともいえる。時間をかけて関係者の利害を調整して形作る法律と違い、素早く導入できる。しかも動かされる人々は無自覚であることが多い。だから反発や議論も起きにくい。

デザインには複雑な課題を単純化して解決する威力がある一方、局所的で偏った解を導く恐れもある。スピード重視のネット時代には、直感に働きかける仕組みは巧妙さを増すだろう。目的の正当性や影響が精査されなければ、ナッジはダークパターンとして暴走しかねない。人を操るデザインに、議論まで奪われてはならない。


引用:NIKKEI The STYLE 2022年7月3日付



ここで述べられているのは、利己的な形で進んでしまっているアーキテクチャーだ。

いわば、強権的な政治手法とも共通する。

あ、でもマトリックスのアーキテクトは独りよがりの典型例か。



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